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歯みがき剤を使う理由とは何だろう?

2024.10.31

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皆さんが毎日取り組んでいる歯みがき。歯のためにも全身的にも、とても大事なのですが、皆さんは何を使って歯みがきをしているでしょうか。歯みがきに使用する物はいろいろあると思います。基本的には歯ブラシと歯みがき剤でしょう。そのほかには、歯間ブラシやデンタルフロス、ワンタフトブラシ、マウスリンスも使っているという方もいるでしょう。電動歯ブラシをお使いの方も近年増えてきています。

では、皆さんはそれぞれの物をその特徴をきちんと活かすようにうまく使えているでしょうか?それぞれの道具や薬品はその目的のために特徴づけてデザインされています。それを理解して使うことで初めて効果を発揮したり高めたりできるわけです。まずここでは多くの方が使っていらっしゃる歯みがき剤について考えてみたいと思います。

そもそも歯みがき剤を使うのはどんな効果を期待して、なのでしょうか。歯が清潔になる?含有成分で薬理効果が期待できる?口臭が消える?歯の見た目がきれいになる?そうなっていますか?

まず一番基本的な事として、本来の歯みがきの目的はなんだったでしょう。歯みがきは歯についているプラーク(=細菌の塊・白っぽいネバネバ)を落とすことですが、これは歯ブラシが当たることで物理的に落とすのです。歯みがき剤を使ったからと言って歯が特段きれいになるわけではありません。歯みがき剤が石鹸のような効果を発揮するわけではないのです。歯みがき剤を使わなくとも歯ブラシだけでプラークは落とせます。これにはびっくりされる方もいるでしょう。

また、「酵素でプラークを分解!」なんて謳っていることもあると思いますが、それ自体が嘘ではなくても、結局プラークを十分落とすためには歯ブラシをしっかり歯に当てることは必須なので、実は重要な効果ではないのです。「薬効成分で殺菌消毒!」というのもありますが、そもそもお口の中には細菌が大量にいて、歯にはプラークという形で厚みを持ってついています。薬がやってきてプラークの表面の細菌を殺してもその深部まで殺菌しつくすなんて不可能だし、不必要です。歯みがきは歯肉に炎症を起こさないレベルにまで菌をコントロールすれば良いのです。細菌は常に増えているので一時的に殺菌などしたとしてもすぐ増えてしまいます。

口の中の菌を撲滅することはできません。また口内環境にいる細菌は数百から千種類以上と言われており、細菌の塊はそのバランスというものもあります。いわゆる善玉菌、悪玉菌というものを意識したとき、薬剤での殺菌はそのバランスを崩して悪玉菌が結局増えるかもしれません。お口の中に関しては菌を撲滅するという発想はナンセンスなのです。そう、マウスリンスもこういった要素に注意しなければなりません。例として「黒毛舌」というものを挙げておきます。興味があれば検索してみてください。

口臭はどうでしょう。においというのは細菌が出すにおい成分によるものです。つまり歯ブラシでしっかり細菌を落とすことができれば多くの場合解決するものです。ただしにおい成分を消す作用はあって悪いものではないので、これについては一定程度期待してもよいでしょう。

プラークではなく歯が茶色くなるようないわゆる汚れ(ステイン・茶渋など)はどうでしょう。これはステインを溶解する成分が入っているものには明らかな効果があります。私は自分の歯で実験したことがあるのでこの効果についてはお勧めしたいと思います。物は選ばないとなりませんが。ちなみにホワイトニング(歯自体の色を白くする)などと謳っているものはほとんど効果がないと考えてよいと思います。

そうすると、健康面で歯みがき剤には期待できる効能はないのでしょうか。いえ、我々歯科医療者が一番重要と考えているのは現在ほとんどの歯みがき剤に含まれているフッ化物による歯質強化(むし歯への抵抗性)です。これは様々な研究でむし歯を抑制する効果が認められているので、これこそ歯みがき剤を使う一番の理由になります。

そもそも歯みがき剤は、むかし喫煙率が高かった時代のヤニ取り(研磨剤が入っている)や、ミント味で泡立つことなどによって歯みがき時のもやもや不快感を失くしてすっきりと気持ちよく、「きれいになった気にさせる」のが目的だったと思われます。これらは現在の歯みがきの目的として医学的に重視されている観点からはマイナスの要素です。研磨剤で歯がすり減ったり、ミント味できれいになった錯覚をして実際にはプラークが落とせていないことになってしまいます。気持ちいいことは悪い事ではないのですが、そこをちゃんと理解して使用しないとかえって健康を損なうことになる。そんなことのないように歯みがきに使用する物はよく吟味して活用してほしいと思います。